■ 操舵抵抗 自転車を停止させた状態でハンドルを左右に動かす時、若干の抵抗感を感じます。正確には実験でその関係を求める必要がありますが、前輪にかかる荷重が増えるのに比例してこの静止時の操舵抵抗が増大します。車輪が回転している時の操舵抵抗は静止している時よりも減りますが、走行面とタイヤの接触面を微視的に見るとタイヤの変形や摩擦抵抗が生じているため、やはり操舵抵抗は存在します。前輪にかかる荷重をW1、走行時の定数をμ、走行時の操舵抵抗をF1とすると次式で表されます。(定数μは車輪の径、形状とも関連)
なお、この値は速度が低い範囲で影響が大きいものですが、速度が高まるにつれ、トレール長によって生じる力が中心的になります。
F1=μ・W1 ・・・ [1] 式
■ トレール長と直進安定性 自転車のフォークは上図のキャスターアングルと、図には示しませんがフォークの先を曲げたりして得られるキャスターオフセットでその特性が決まります。自転車で走っている状態では、P1点、またはP2点に対してO点方向に引っ張る力が生じます。自転車を手放しでも直進できるのはこの力の作用によります。この力はトレール長、前輪にかかる荷重、速度で影響を受けるもので仮に速度を一定とすると前輪にかかる荷重W1とトレール長Lの積に比例します。
小径自転車のキャスター角、キャスターオフセットをそれより大きいサイズのものと同じ値で設計した場合、図で示すようにトレール長が短くなります。この結果、前輪に同じ荷重W1がかかるとすると小径車輪ではW1×L1、大径車輪ではW1×L2の直進を保とうとする力が生じ、結果的に直進安定性が低くなります。しかし、操縦安定性の考えられた自転車では小径であっても同程度のトレール長(50mm程度)を確保するように設計されるもので、ひとつの検討要素としてトレール長を取り扱うといった方がよいようです。
【訂正について】 最初、W1×L1、W1×L2の部分をW1×P1、W1×P2と誤記していました。失礼しました。■ 前輪にかかる荷重自転車の車輪の分担荷重
操舵時の抵抗、トレールによる直進安定性ともに前輪にかかる荷重に関係します。
自転車に乗車した場合に前輪、後輪にかかる反力R1、R2は人の乗車姿勢によって荷重の分散状況が異なり、計算で値を求めるのは困難ですが、単純化して体重と自転車の重量が上図の重心で集中荷重としてかかると仮定すると次式で表されます。
R1=W×(L-L1)÷L ・・・ [2] 式
R2=W×(L-L2)÷L ・・・ [3] 式
R1+R2=W ・・・ [4] 式
自転車のハンドル、サドル、クランクの位置は人体寸法で規定されるため、大きく変えることはできません。これに対して人の乗車する部分の後ろはこのような制約は少ないことから、省スペースを目的とした小径自転車ではBBから後ろの部分が短くされます。次の実験対象のGIOS PURE (タイヤ:700C) とWachsen BA-100 Angriff (タイヤ:20インチ)のBBと後輪の軸間の距離を比較すると後者が3cm短くなっています。また、GIOS PURE のシートチューブ角は75°であるのに対して、この実験時のBA-100の実質立管角は約72.4°でさらに約3cmほど重心が後になっていると考えられます。
【実験】 体重計に車輪を載せてのラフな計測ですが、前傾姿勢で乗る700Cの車輪のクロスバイク(車体と体重で71kg)で前輪に30kg、後輪に41kgの分担荷重となりました。20インチの車輪を履いた折りたたみ自転車(車体と体重で72kg)で背筋が直立した姿勢では前輪で21kg、後輪で51kgの分担荷重になりました。
■ まとめ 「小径自転車のハンドルの安定感が低い」といわれる原因は次の2つに整理できます。1) 前輪にかかる荷重が低い; BBから後輪軸までの距離が短い、乗車姿勢が直立に近い状態となるハンドルなどの採用 など
2) 前輪周りのジオメトリーの設計を普通の自転車と同じとしたため、結果的にトレール長が短くなり、直進安定性が普通の車輪の自転車より低い(→ これは操縦安定性を考慮して設計した自転車の場合、考えにくい要素)
ALEX MOULTONが小径車輪でもBBと後輪の距離を短くしていないのはサスペンション機構の付加もあるかもしれませんが、操縦安定性のために前輪荷重を確保した設計と推測されます。また、小径自転車でもキャスターが寝ているのは直進安定性を考慮した結果によります。やはり、「設計次第」といえます。
【小径自転車の前輪の安定感を高める方法】 小径自転車のハンドルの安定感を増す方法は「乗車姿勢を前傾として前輪に荷重がかかるようにする」です。
前傾姿勢となることで自然と両腕でハンドルの左右を押し出すような力が加わり、凹凸などによって車輪から加わる外力に対抗でき、ハンドルの安定につながります。具体的には次の改造や調整を行います。(著者の小径自転車もこれによって調整し、ハンドルの安定感を高めています。)
1) ステム、ハンドル周りを交換して自然に前傾姿勢をとれるようにする
2) シート角が72°程度であればBD-1のようにサドルのヤグラの取り付け方向を逆として実質立管角を75°として座る位置を変えて重心位置を前方にする。
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本blogで下記の自転車に関する記事を書いてきました。その中で紹介の小冊子「走りに関心ある人のための小径自転車の選び方とカスタマイズ」を書いていて、自転車関係として出版されているものは「自転車を売らんがための」の内容が多く、工学的な内容を扱った本はほとんどないことに気づきました。そこで本記事の元となるものを含めて色々、書き始めたのですが、まとまりがつかなくなったために置いているうちに、私の頭のスタックポインターがFILO (First in, Last out)の構造ため、"HYBRID W-ZERO3 Maniac", "Papilio 6.5X21 Maniac", "Tripod Maniac"が先にできてしまいました。
当初の目的を果たすため、本blogでまとまった部分を公開しながら、自転車に関する電子書籍をまとめようかなと考えています。
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ロボット人間の散歩道:So-netブログ (自転車に関する記事)
http://robotic-person.blog.so-net.ne.jp/search/?keyword=%E8%87%AA%E8%BB%A2%E8%BB%8A「走りに関心ある人のための小径自転車の選び方とカスタマイズ」をまとめました:ロボット人間の散歩道:So-netブログ
http://robotic-person.blog.so-net.ne.jp/2009-12-11アレックス・モールトン自転車
http://www.dynavector.co.jp/moulton/【追記 2011年1月19日】 Web検索していて下記の論文を見つけました。折り畳み自転車の折り畳み機構の部分を分解してその間にホィールベース長をかえるための各種寸法のスペースを入れて操縦安定性を評価しようとするものです。確かに実験としては楽な方法です。しかし、操縦安定性が前輪荷重に深く関係するという2輪車の設計の基本を理解していれば、もう少し、異なった実験のアプローチがあったのではと思います。学生さんの研究でしょうからあまり厳しいことを言ってもしかたありませんが・・。
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『小径自転車の安定性に関する研究』(日本機械学会 Dynamics and Design Conference 2001)
http://www.jsme.or.jp/monograph/dmc/2001/data/pdf/705.pdfDahon Stab
http://www.johnforester.com/Articles/BicycleEng/dahon.htm・ 価格コムでkomakuroさんからご紹介いただいたトレール長に関する実験を紹介するサイト
フレーム設計思想|アンカーについて|ブリヂストンのスポーツバイク アンカー|anchor
http://www.anchor-bikes.com/anchor/anc03.html