シートポスト・リアキャリアの荷重計算(BA-100を例として) 自転車のシートポストに取り付けるリアキャリア、「うまく考えたものだなあ」と以前は思っていました。しかし、折り畳み自転車WACHSEN BA-100 Angriffの改造事例を調べていて、Q.sinさんのblogでアルミフレームのシートチューブ上端部の折損の報告を見て、考えを変えることになりました。
Q.sinさんはシートポストのシートチューブへの挿入長が短かったことを原因としてあげられていましたが、blogに掲載の写真にシートポスト・リアキャリアが写っているのを見て、「この影響も無視できないな・・」と直感しました。blog上で氏に質問し、氏のアルミポストラックUL-50A (U-LIX、最大積載量15kg)に積載する荷物が5kg~7.5kgということを聞き、作用する力を計算してみます。
BA-100はJIS基準耐振フレーム試験合格品とされます。このもととなる『JISD9401 自転車-フレーム』のフレームの強度試験の耐久性試験は、「フレームと組み合わされるシートポストを使用し、シートポストをはめ合わせ限界標識の位置に固定する」としてフレームの形状がダイヤモンド形以外のものについては、ヘッド部 5kg、シート部 45kg、ハンガ部 15kgの計65kgの荷重をかけ、振動周波数 5~12Hz(共振周波数を避け、任意に設定)、加振部の加速度17.6m/s^2、加振回数70,000回をかけ、フレーム各部に破損、著しい変形又はゆがみを生じてはならないとするものです。
BA-100のサドルの荷重とリアキャリアの荷重を簡単にまとめた上図で、サドル上の45kgの荷重によりシートチューブの頂点のSP点に曲げモーメントがかかります。シート角75°
(先に73°(JISのシートポスト単体の試験の値で計算しましたが、BA-100はシートチューブからオフセットしているため実際の角度に変更)、シートチューブ上端部からサドル上面の距離400mm (BA-100 Angriffのシートポスト長は500mmで150mmをシートチューブに挿入とし、また、サドルの厚さを考慮した値)から、a = 400mm×cos (75°) ≒104mmとなります。そこでサドル荷重により、シートチューブ上端で約45.7N・mの力のモーメントがかかります。一方、リアキャリアの荷物を7.5kg、荷物の中心からシートチューブ上端の水平距離を300mmと仮定すると、リアキャリアの荷物によって22N・mの力のモーメントが増加(約48%の増に相当)することになります。
実際に自転車に乗っている場合、サドルのクッションが振動を軽減することになりますが、シートポストに取り付けたリアキャリアでは走行中の荷物の振動を減衰することなく、直にシートポストに伝えること、また、サドルの荷重による振動と荷物による振動のピークが重なった場合には大きな力が発生し、また、リアキャリアには共振周波数を避ける術はなく、荷重条件はさらに厳しいといえます。そしてBA-100のシートチューブ上端部の折損はシートポストの挿入長が短かったために、テコ比([シートポスト挿入長]:[シートチューブ上端からサドル上面までの距離])によって上記で計算した力のモーメントの合力が増幅されて、シートチューブ上端の折損に至ったと考えられます。
シートポストリアキャリア(製品により様々な呼び方がありますが)に表示の耐荷重はその製品単体のものであり、自転車に取り付けた時の自転車の耐荷重(耐久性への影響)を考慮したものではありません。ダイヤモンド形フレームの自転車や鋼製フレームの自転車にシートポスト・リアキャリアを取り付ける場合はある程度の積載が可能と考えられますが、アルミ合金製の自転車、特に上記の計算のように
シートポストの突き出し長が長く、シートチューブに大きな曲げモーメントが働く折り畳み自転車ではシートポストリアキャリアの取付けは避けた方が無難と考えられます。
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Q日記 WACHSEN BA-100シートポスト部分のフレーム破損
http://sin7707.blog33.fc2.com/blog-entry-442.htmlgan well岩井商会 U-LIX UL-50A アルミポストラック
http://www.iwaishokai.co.jp/detail.php?category1=35&sn=616