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高木仁三郎「市民科学者として生きる」(1999年、岩波新書) [本と映像・音楽の話]

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 小宮山書店で6月2日にまとめ買いした本の読書の記の続きです。
 1975年から原子力資料情報室の設立に参加され、1986~1998年までその代表を務められた高木仁三郎氏が抗癌剤治療のために癌研究所付属病院に入院されていた1999年3~5月のベッドの上でほとんどを書かれ、1999年9月に発行されたのが「市民科学者として生きる」です。本書は著者の半生記であり、生涯をかけて取り組まれてきた反原子力発電の活動の紹介を通して「市民科学者とは何か」について著者の考えを伝える内容となっています。
 4ページの「(略)この会議に向けて、通産省や原子力産業は、「二酸化炭素排出削減は原発増設で」と、地球環境問題を原発増設にすり替える猛烈なキャンペーンを行っていたので(略)」をはじめとして行政の「何のために、誰のために働いているの?」という姿が指摘されています*。私も原子力発電設備に関連するプロジェクトに約5年間携わっていたことから、本書に記載された内容に「そうだったのか」と考えさせられることが少なからずありました。また、その専門分野について知識のない人に伝えることの難しさ、「それらの人たちの理解を」という活動を通して問題を発見することがあるなど、「肝に命じなければ」となりました。
 「ロボット人間の散歩道」というblog名をつけたのは、ある女性から「ロボットみたいね」と私の融通の利かなさを指摘されたことが、心に残っていたことによります。本書を読みながら、著者の考え方が私のそれに重なる部分が多いように感じました。残念なことに著者は2000年10月8日に逝去されました(原子力資料情報室のWebサイトに「高木仁三郎の部屋」があります)。


*国家公務員倫理規程が施行されたのは2000年4月1日からでした(以下、倫理行動規準を抜粋)。

(倫理行動規準)
第一条 職員(国家公務員倫理法(以下「法」という。)第二条第一項に規定する職員をいう。以下同じ。)は、国家公務員としての誇りを持ち、かつ、その使命を自覚し、第一号から第三号までに掲げる法第三条の倫理原則とともに第四号及び第五号に掲げる事項をその職務に係る倫理の保持を図るために遵守すべき規準として、行動しなければならない。
一 職員は、国民全体の奉仕者であり、国民の一部に対してのみの奉仕者ではないことを自覚し、職務上知り得た情報について国民の一部に対してのみ有利な取扱いをする等国民に対し不当な差別的取扱いをしてはならず、常に公正な職務の執行に当たらなければならないこと。
二 職員は、常に公私の別を明らかにし、いやしくもその職務や地位を自らや自らの属する組織のための私的利益のために用いてはならないこと。
三 職員は、法律により与えられた権限の行使に当たっては、当該権限の行使の対象となる者からの贈与等を受けること等の国民の疑惑や不信を招くような行為をしてはならないこと。
四 職員は、職務の遂行に当たっては、公共の利益の増進を目指し、全力を挙げてこれに取り組まなければならないこと。
五 職員は、勤務時間外においても、自らの行動が公務の信用に影響を与えることを常に認識して行動しなければならないこと。

 財務省の佐川宣寿前国税庁長官の証人喚問における虚偽の証言の疑い財務省の福田淳一事務次官のセクハラ行為による辞任文部科学省科学技術・学術政策局の佐野太局長が東京医科大学への便宜を図った疑いで逮捕されたこと(その後、東京医科大学、理事長と学長が辞任したことは逮捕容疑を裏付けるもの)など、連続しています。「私が国家公務員になった時は国家公務員倫理規程などなかったから」というのは言い訳になりません。
 昔、「国家公務員は融通が利かなくても物事を正しく行なう人々」と信じていたことがありました。しかし、1990年代、論文を書く中で当時の厚生省の人口問題研究所の人口将来推計の計算内容を調べ、「ありえない仮定」によって計算されていることを知り、国家公務員に対する信頼は崩れました(OR学会誌でもその問題が指摘されているのを知りました)。それ以来、「政府発表を鵜呑みにしてはいけない」、「行政は省庁という縦割り組織であり、大臣はその時の政治状況でお飾り的に配置される人材がほとんどでその大臣が管轄するところの組織について理解していない。よって大臣同士が各省庁の橋渡し役となって省庁間の効率化を図ることは不可能である」、「省庁はその一つでも巨大な組織であり、そこで働くキャリアといわれる人材は定期的に異動し、自らのポジションを高めることに価値観を置いている。この結果、部分最適化という狭い範囲でしか、物を見られなくなっている(行政というシステム全体を見て改革できる人はいない)」、「行政という組織はひとつの社会であり、全て正しいことが行われている訳ではない(OBの働き先を作ることも使命と考えるなど、村社会の考え方で育っている)」などという考え方が基本の見方になりました。

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柳川範之(著)『独学という道もある』:ロボット人間の散歩道:So-netブログ
http://robotic-person.blog.so-net.ne.jp/2018-06-15
「ヒロシマ・ノート」と「爆心地ヒロシマに入る」:ロボット人間の散歩道:So-netブログ
https://robotic-person.blog.so-net.ne.jp/2018-06-25
原子力資料情報室
http://www.cnic.jp/
高木仁三郎の部屋
http://www.cnic.jp/takagi/
市民科学者として生きる - 岩波書店
https://www.iwanami.co.jp/book/b268450.html
Amazon.co.jp: 高木 仁三郎:作品一覧、著者略歴
https://www.amazon.co.jp/%E9%AB%98%E6%9C%A8-%E4%BB%81%E4%B8%89%E9%83%8E/e/B001I7HCR8
国家公務員倫理規程
http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=412CO0000000101&openerCode=1


市民科学者として生きる (岩波新書)

市民科学者として生きる (岩波新書)

  • 作者: 高木 仁三郎
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1999/09/20
  • メディア: 新書



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ZUNYA

r-pさん、こんにちは!

高木さんの著書、僕も本書を含めて何冊か読みました。

「科学者の良心」(と言うか、「人間の良心」)を体現している方だったと思いますし、ともかくも亡くなるのが早かった、そう悔やまれます。今、生きておられたら、この様々な惨状に、高木さんは何を思うのでしょうか?

しかし…

まさに、その“対極”ですね、最近のテクノクラートどもは!(怒)

でも…考えてみれば…こんな下劣な行政官僚どもの総元締めたるAら一派が、大量死刑と死者・犠牲者多数の大災害のさなかに“酒盛りでご満悦”なのですから…これは或る意味『当然の醜態』なんでしょうネ…

高木さんとテクノクラートども、この両者の「絶望的な隔たり」には、何とも言葉を失います…

でも、いたずらに絶望してても仕方ないですし、ひとりひとりが諦めず、自分なりに出来る事をして行く事…それに尽きます。

それでは、また!
by ZUNYA (2018-07-14 14:16) 

robotic-person

>ZUNYA さん、こんにちは!
若い人たちが現在の世の中に失望して自暴自棄にならないように、「「総元締めたるAら一派」ばかりでないことを伝える努力をしているか?」と反省しています。

by robotic-person (2018-07-14 15:21) 

ZUNYA

(若輩者の僕が言うのも、ホント僭越かつ恐縮なんですが…)

いや、r-pさんは、その「努力」を十分以上になさってますヨ!

僕もそのr-pさんの(散歩道の)足跡に一票を投じる気持ちで、毎回blogを拝見してます!!

←nice!を投じる愛読者の方々も、きっと“僕と同じ気持ち”だと思いますヨ!

事実、名機X-M1や名機XQ2の再購入などをはじめ、仕舞いにはレガシィ(=ワゴンBP型の兄弟たるセダンBL型)を買っちゃう位、本blogを参考にしてますから…(笑)。

では、また!

≪追伸≫
以前からずっと言おう言おうと思ってたんですが、r-pさん愛用のXQ2、もし壊れたら、僕のURL宛にご連絡下さい。今までの購読料の代わりとして、「ほぼ新品のXQ2を無料で」お譲り(お送り)します!当方、無宗教・無党派の独立系人間(例えれば一匹オオカミならぬ一匹羊かな?)ですし、言わずもがな…の当然事ですが、r-pさんのプライバシーには絶対に立ち入りませんので、何卒ご安心ください。いやホント、僕のXQ2、完全に防湿庫の肥やし状態…でも、何故か売るという気はしないんですヨ(笑)。





by ZUNYA (2018-07-15 01:36) 

robotic-person

>ZUNYA さん、
XQ2はいつもデイパックの中にあり、展示会や出先での記録など、私の貧弱な記憶力を補う、心強い相棒となってくれています。35mm判換算25mmの望遠、広角端のF1.8という明るいフジノンレンズ、最大画素数での使用を促すX-Trans™ CMOS IIセンサーの画質、そして常時携行を促す寸法・質量(X-M1の稼働率が上がらないのはXQ1、XQ2のおかげ・・ (^_^; )
 Legacy Touring Wagon 2.0i B-Sportsは毎月約1,500kmの走行に使用し、1.8×0.9 m のコンパネも収容できる荷室が便利をしています。
 XQ2のお申し出ありがとうございます。いい子ですので、防湿庫の肥やしとせず、是非、使ってあげてください。

by robotic-person (2018-07-15 10:10) 

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