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日本のインターネットラジオ [科学技術とジャーナリズム]

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 日本のインターネットラジオについて少し考えてみます。

1. 放送法
 1990年代の中ごろ、知的所有権法の講義を受けていたことがあります。そして急速な電子化に対して法が後追いの状態であるのと、それに対応するための法の整備について聴いたことを今も思い出します。
 『PJ-20 Maniac』の改訂版でインターネットラジオに関するページを大幅に増やしましたが、それを書いていて感じたのが、現代の放送と通信の垣根のない時代に対して、ラジオ放送を取り巻く法や従来の権利関係の処理のあり方が時代にそぐわなくなっていることでした。
 例えば、インターネットラジオとして私のWebサイトに私の作曲した音楽ファイルを置いて誰でも聞けるようにするのは法的な制約はかかりませんが、放送局が放送しているものと同じ内容をインターネットで配信しようとすると、その放送内容の権利関係者と新たな調整を行い、また、放送法の第百二十六条による民放ラジオ局の業務区域の範囲に対する配慮からとった配信形態から、先のblogで「iBook G4、iTunesや世界のインターネットラジオが聞けるのに、なぜ、radiko.jp、「らじる★らじる」が聞けないの?」になります。
 ITproの『日経ニューメディア』の「FM東京のデジタルラジオ休止にみる免許運用の実態 - 記者の眼」という記事で見えてくるのは、日本のデジタルラジオの芽を摘んでしまったのは、放送法の免許制に関する総務省の硬直した運用でした。(デジタルラジオという名前は過去のものとなり、今後、マルチメディア放送という名称が使われるようですが、災害情報のツールとしてインターネットに対する根拠のない過度の期待がかかっていることに対して、無線による放送の重要さを提言していかなければならないのは放送関係者のはずなのですが、NHKというマスメディアが無評価にインターネットの利用を番組の中で紹介している現状ですので、考えさせられます・・。
『悪法でも法は法』
で対応しなければならない世界ですが、制度疲労が明確ならば抜本的な改正の取り組みを行わなければなりません。総務省はそのような柔軟に考える人物はいないのでしょうか・・。

2. 日本のラジオ局
 民放ラジオ局は放送法に守られてその免許地域での広告収入などを得られる構造となっています。そこでインターネットラジオ局は、自局のリスナーを奪われる可能性のある競合相手と考えられます。また、AccuRadioやiTunesのradioで様々な音楽ジャンルの専門ラジオ局が紹介されていますが、これらの局を広く知らしめることは、今まで日本のラジオ局の音楽番組を聴いていたリスナーを奪われてしまうことに繋がります。インターネットラジオは国内ばかりでなく、海外局も日本の従来のラジオ局の競合相手となります。
 また、米国で「最も信頼できるニュースソースのひとつ」とされるNPR(National Public Radio)の存在を知ると、「日本のラジオ局の報道のレベルはこれでよいのか?」と権威の失墜にもつながります。
 AMラジオはFMラジオと比較して音質が悪く、目的を持つ場合を除いて積極的に聞こうという気分にはなれないのが実際だと思います。インターネットラジオはこの音質という面を改善し、FMラジオ局と並ぶものにします。ただ、上記のような競合相手に対抗できる番組作りかどうかが大きな課題になります。
 明け透けにいうと海外のラジオ放送をインターネットラジオで聞けても国内のラジオ局にはなんらメリットとならず、国内のラジオ局にとって
『インターネットラジオは取り組まざるを得ない諸刃の剣』
のような存在といってよいのかもしれません。

3. メーカー
 インターネットラジオはPCとインターネットのブロードバンド接続環境があれば利用できます。また、radiko.jp、「らじる★らじる」からスマートフォンで聴取できるようにアプリも提供されています。
 一方、ネットワークオーディオとしてインターネットラジオの聴取が可能な製品(例:RCD-N7(DENON)、M-CR603(marantz))も販売されています。そして海外の製品ではインターネットラジオの聴取専用の機器もあるようですが、私の知る範囲では国内メーカーからはインターネットラジオ専用の機器はでていないように思います。
 インターネットラジオ対応を先取りしたオーディオ機器、民放ラジオ局(インターネットラジオradiko.jpは2010年3月15日に開局)、NHKのインターネットラジオへの対応(2011年9月1日に「らじる★らじる」開局)の遅れ、仕様の課題(radiko.jp、「らじる★らじる」を聴取できない?)や製品の販売不振を生んでいるのではないかと気になります。(radiko.jp、「らじる★らじる」は試験放送というスタンスで本放送となっていないため、総務省を慮って大々的に広報されることがないことも一因するのではと考えられます。)
 PCや販売を拡大しているスマートフォンで聞けてしまうことから
『インターネットラジオは専用の新しい製品による売り上げ拡大には結びつかない』
ように思われます。

4. リスナー
 インターネットラジオを使って世界の様々なラジオ局の音楽などを聴取できるとPRしても、外国語であることからハードルが高いと思われてしまうこと(iTunesのradioなど、音楽専門チャネルが魅力で、また、簡単に聴取できるのですが・・)があると思います。また、日本のラジオ局、メーカーは上記のように積極的にインターネットラジオを広報する事情にないと考えられることから
『インターネットラジオの認知度は低い』
と思われます。

 私にもいえるのですが、従来のラジオという固定観念を捨てることが必要なようです。
 また、日本のラジオ局がインターネットラジオを通して復権するには、その費用をかけない安直な番組制作のあり方も見直しが必要と思います。

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インターネットラジオ - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%8D%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%A9%E3%82%B8%E3%82%AA
放送法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO132.html
FM東京のデジタルラジオ休止にみる免許運用の実態 - 記者の眼:ITpro
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/OPINION/20080415/299034/
DRP DIGITAL RADIO PROMOTION ASSOCIATION 社団法人デジタルラジオ推進協会
http://www.d-radio.or.jp/
・ 実用化試験放送は2011年3月31日で終了し、「デジタルラジオ実用化試験放送のノウハウは、V-Low(VHF-Low帯)マルチメディア放送に引き継がれています。」とされています。
VHF-LOW帯マルチメディア放送推進協議会
http://www.vl-p.jp/index.html
・ 「「VHF-LOW帯マルチメディア放送推進協議会(略称VL-P)」は、2011年以降のアナログテレビジョン放送終了後のVHF帯を利用した携帯端末向けマルチメディア放送のうち、VHF-LOW帯において、放送事業者として参画を期待する事業者・団体により、2009年2月20日に設立されました。  「VL-P」は、VHF-LOW帯マルチメディア放送の普及に向けて、受信機の早期発売をめざし、サービスイメージの検討、事業者運用規定の策定等を行っていくことを活動方針とし、2011年の放送開始まで検討を進めていく予定です。」とされますが、その姿は見えてきません。
AccuRadio online radio Mix & match over 600 streaming radio stations
http://www.accuradio.com/
上柳昌彦のお早うGood Day! AMラジオ 1242 ニッポン放送
http://www.1242.com/goodday/index.php?id=2&YMD=2010-03-15
NPR National Public Radio News & Analysis, World, US, Music & Arts NPR
http://www.npr.org/

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うえいぱうわ

ラジオってなまじ歴史が古いだけに、運用するほうにも
硬直した考え方があるのかもしれませんね。
古くて新しいメディアなんだろうなと思う今日この頃です。

by うえいぱうわ (2012-04-30 18:52) 

robotic-person

>うえいぱうわさん、
PJ-20を入手したのを契機にインターネットラジオについて調べ始めた程度ですが、多くの人たちに愛されているメディアであるのは間違いないと思いますので、よい番組を作って欲しいですね。
by robotic-person (2012-04-30 21:54) 

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